『少年病棟』





「…新しい家庭教師っ!?」

俺は、耳を疑った。
「そう。ほら、今の家庭教師のレイジさん、ずっと入院したままでしょう…? 次の家庭教師はね。有名な医大を卒業した人なの。きっと、今より成績も上がるし…その方がいいでしょ…?」
そう言う母に、反論する言葉が浮かんでこなかった。
すべてにおいて筋が通っているからだ。
「…でも…俺、レイジで…いいよ…」
「どうして…? もっといい人がせっかくやってくれるって言うのよ? 断る理由がないじゃない?」
その通りで…。
つい、わかったと答えてしまっていた。



新しい家庭教師が、レイジより頭がいいだとかそんなん問題じゃなくって…
レイジと会えなくなるんじゃないかと思うと、それが嫌だった。

「…レイジ…」
「シンゴ。毎日、悪いな。ただの家庭教師なのに…」
ただの…家庭教師…。
ただの家庭教師だってんなら、毎日来ないよ…。
「…新しい…家庭教師、雇うとか…親が言い出したんだ…。レイジ…入院してるし…」
そう言う俺に、レイジは驚いたのか、一瞬何も言えずに、ただ俺をジッと見た。
「でも…っ、もうすぐレイジ、退院出来るだろ…っ?」
レイジは、少し困ったような表情を見せて、自分の髪をかきあげる。
「…まだ…わからないんだ…」
「…だいぶ…良くなってんだろ…? 新しい家庭教師って…なんか医大卒業したみたいなんだけど…俺、そんな堅そうな奴、やだよ」
医大がどうとかじゃない。
レイジ以外の人は、誰だって嫌だ。
レイジじゃなきゃ、嫌だった。
「…そっか…。俺より頭もいいし…教え方もうまいんだろうな…。じゃぁ…俺はもうお役ごめんだな…」
レイジは、少し残念そうな表情をしてくれる。
「…そんな…の…」
違う。
俺のためを思って、新しい先生を良く言ってくれてるのかもしれないけど、もっと嫌がって欲しい。
家庭教師が代わるってことは…
レイジと、もう会えなくなる。
個人的に会うことが不可能なわけではない。
それでも、事実的に、レイジはクビみたいなもんで…
俺の家には来にくいだろうしで…。
「…ごめんな、シンゴ。俺、なんかあんまり役に立てなくて…」
「レイジは…? なんとも思わないの? …代わって…いいわけ…?」
ホントは、代わりたくないだとか言って欲しい。
これからがんばって教えるから家庭教師を続けたいとか言って欲しい。
別に成績が上がりたいわけじゃない。レイジと一緒にいたいだけ。

それでも…
レイジは俺の期待を裏切る。
「…その…新しい人の方が…頭いいみたいだし…。シンゴのためにいいよ…」
俺のため…?
俺は、成績なんかどうでもいいのに…。
「…わかった…。もういい…っ。じゃぁね…」
「…シンゴ…っ!?」
俺の態度に疑問を持ったのか、後ろからレイジが呼びかける。
それに対して、振り返ることも出来ずに俺は病院を後にした。



「…はじめまして。シンゴくん…だね…」
今日、俺の家に新しい家庭教師の三井先生が来た。
あぁ、レイジの入院している病院で見たことがある。
小児科の先生だとか。
子供相手の先生だから…やさしいんだろうか…。
「…シンゴでいいよ…」
俺は、そっけない態度でそう答え、カバンから今習っている授業の教科書を取り出す。
自分の部屋の少し大きめの机の上に、教科書を置き、並べられたイスの片方に座った。
三井先生は少し笑って、俺の隣のイスに腰をおろした。

「…病院で見たことあるよ。スケボー乗って、目立ってたし…」
「…俺も…たまに見たよ。背、高いし…なんか…女の人に注目されてたし…」
一般的にかっこいいと言われる顔立ち。
女の人は、ほっとかないのだろう。
「…そう? でも、俺は興味ないんだけどね。そういう女の人たちは…」
なんだか、態度が気に食わない。
絶対、レイジの方がいい。
「どこまで教わった? 前の…綾瀬さんは…ちゃんと勉強教えてくれた?」
綾瀬…。
レイジの名前を出されると、緊張が走る。
体が強張った。
「…ちゃんと教えてくれたよ。怪我さえしなければ……」
ずっと、レイジが俺の家庭教師でいてくれるはずだった。
「…怪我がどうとかの問題じゃないと思うけどね…。綾瀬さんに家庭教師をしてもらって…シンゴの成績は上がった?」
「…っ…上がったよ…っ」
レイジを馬鹿にしているようなものの言い方に腹が立つ。
だいたい、レイジの代わりに来たって時点で、俺は気に食わなかった。
「…違うね…」
「…は…ぁ…?」
言葉の意味がわからず、首をかしげてそちらを向くと、三井先生は軽く笑って俺のアゴを掴む。
「…っな…」
「…違うんだよ。成績が上がったって…? 綾瀬さんのおかげじゃない。君の実力だよ。どうせ、ある程度成績をあげないと、親が綾瀬さんをやめさせるんじゃないかとか…そういうこと考えて、自分で勉強したんだろ…?」
たしかに…
レイジと一緒にいるときはたくさんしゃべって遊んじゃったりもして…。
でも、勉強だって教えてもらった。
「…っレイジのおかげだよっ。成績上がったんだから…っ」
「…そう…? 君の成績表、見せてもらったけど……もっと上がるはずだ…。あんなぬるい教え方じゃ駄目なんだよ…」
そう言い終わると、三井先生は掴んだ俺のアゴを引き寄せて、あろうことが自分の口を俺の口に重ねる。
「…っ…んっっ!」
一瞬、なにが起こったのか分らなくって、ただ動けなくなっていた。
中にそっと入り込んだ舌先が、俺の舌に絡まって、嫌なのに三井先生をどかすことが出来ない。
体に力が入らなくなっていた。
「ン…んぅうっ…」
空いている手を後頭部に回して上を向かされた俺の口の中には、容赦なく唾液が送り込まれていく。
含みきれない唾液が、そっと首筋まで伝う感覚に体が震えた。
「っんぅ…っ…」
口が少し離れるたびに、羞恥心を煽るような濡れた音が耳につく。
自分の目が、涙で潤ってしまっていた。

やっと解放された口元からは、唾液の糸が引き、俺は慌てて服の袖でそれをぬぐう。
「こういうことも教わってた?」
「…っ…なわけっ…」
「だよね…初めてっぽいもんね」
そう笑うのが、馬鹿にされているみたいで、むかつくのと恥ずかしいのとで、顔が熱くなっていった。
「っなんで…っこんな…」
「家庭教師にシンゴは何を求める…? 綾瀬さんみたいに…ある程度、成績さえ上がれば満足…?」
そう聞きながらも、三井先生は、少し乱暴気味に、俺の股間のモノをズボンの上から掴みあげる。
「っな…」
「…もっと、効率よく勉強したいだろ……?」  
そっと、ズボンのジッパーを下ろされ、中へと手を忍び込ませていった。
「…っ…な…に…」
 直に俺のモノを掴みあげ、擦りあげていく。
「っふっ…くっ…やめっ…」
 三井先生をどかそうとする手は、あっさりと空いた手で掴まれてしまっていた。
「…あまり…騒がないで欲しいね…。家の人に声が聞かれて困るのは…君も同じだろ…?」  
男である俺が、家庭教師の先生に襲われて、大声出して助けを求めるだとか、そんな恥ずかしいことは出来るわけがない。  
少し黙る俺を見て三井先生は満足そうな表情を見せると、力ずくで俺を立たせ、ベッドまで運んだ。
「っ…」
 仰向けに落とされ、その衝撃に少しだけ目がくらむ。
「…綾瀬さんにして欲しかったんだろう…? こういうこと…」
 レイジに…?
「…そ…んな…っ…」
 違うって…ちゃんと言い切れない自分がいて…。
 恋愛感情を抱いていたのは事実で…。
 こんなことまで考えていたわけじゃないけど…。
「…綾瀬さんのこと考えて、一人でやったりしたんだろう…?」
「…して…な…」
 三井先生は、ベッドのすぐそばにあるカーテンを縛る布で、俺の両手首を一まとめに縛ってしまうと、余った部分を、ベッドの柱へと結びつけた。
「な…ぁ…っ…やめ…」
「君は頭がいいから。抵抗しても無駄だって、わかってるんだろ?」
 明らかな体格差…無駄だというのは、わかってる。
 それでも、抵抗しないわけにもいかない。
 精神的に、抵抗しないでいる自分が嫌だった。
「…顔が真っ赤だ…。なにをやられるかもわかっているようだね。縛られただけだというのにいやらしい子だ…」
 俺を見下すような態度でそう言われ、ますます羞恥心が高まる。
 三井先生に対して、なにも言えなくなっていた。  
 
そんな俺を見てなのか、軽く鼻で笑うと、シャツのボタンを上から順に外されていく。
「…っ…なに…する…」
「…わかってるからこそ、シンゴは…こんな風なんだろう…」
 三井先生は、俺のズボンと下着を剥ぎ取りながら、指先で示すように、露わになってしまった俺のモノをそっと撫であげた。
「っんぅ…っ…」
「…しかし…まぁなんというか。私は、シンゴの家庭教師なわけだから今日は、初日ということで…たっぷりと教え込んであげるよ…」
俺の腰を掴み、軽々と持ち上げると、三井先生は、自分の肩に俺の足をかけさせる。
「…こんな至近距離で、人に見られたこと…ある…?」
 あるわけがない。
 ただ、これからなされる行為というものに対して、不安やらが押し寄せた。
「シンゴは、奴隷の素質があるらしいな。見られただけで、こんなに勃たせて…それに、縛られるのだって、悪くないだろう…?」
「っ…ゃ…だ……っ」
 こういう事…。
 考えたことがないわけじゃない。
 三井先生の言うとおり、一人でするとき、レイジのことを考えたこともある。
 だけど、こんな会ったばっかの…しかも、レイジの代わりとして来た人に…。
「今日は特別だ…」
 今日…は…?
 まだ、これから…なにかする日が続くわけ…?
 三井先生は、なんの前触れもなく、イキナリ俺のモノを口に含んでしまった。
「ぁあっ…ゃっ…やだっ…」
 やだなどという言葉は無意味で、口内に含まれたソレに、三井先生の舌がねっとりと絡まってくる。
「や…ぁうっ…離…っ…んぅっ…やぁっ…」
 こんな会ったばかりの俺に、イキナリ手を出しちゃうような人だ。
 きっと、経験も豊富で…。
 そんな、テクニックの前で、俺が嫌がったり我慢したりするのにも限界がある。
 三井先生の舌先で、淫猥に濡れていくソコから発せられる音が、静かな部屋に響いて、わからないけれど、さらに感じさせられてしまっていた。
 ―こんなのって…―
「はぁっ…あっ…ぁンっ…ぁっ……レイ…ジぃ…」
 生理的なのか精神的なのか、わからない涙が溢れてきていた。
「…困った子だ…」
 一旦、俺のから口を離してそう言うと、少し睨みを利かせてこちらを見る。
 その表情が、ものすごく恐ろしいものに見えて、俺は三井先生から顔をそらした。
 だが、逆に、それが三井先生を怒らしてしまったようだ。
「…ちゃんと、人の顔は見ろ…」
 静かに…それでいて冷たく強く言い放ってから、俺の足をベッドに下ろす。
 三井先生は手を伸ばし、俺の口の中へと指を3本ほど、イキナリ突っ込んだ。
「んぅうっ」
「…舐めたくないなら別に構わないが…つらいのは君の方だということをお忘れなく…」
 笑顔でそう言いながらも、舐めざるを得ないように口内を指先が這い回った。
「んっ…ンっ…んぅうっ…」
「…ココまで、尖ってるじゃないか…。君はいやらしい…犬だよ…」
 三井先生の爪が、胸の突起を軽く何度も引っ掻いていく。
「ンっ…ぁっ…んぅんっ…」
 その度に、体が震えて、熱くなってしまっていた。
 胸元に触れていた指先が、股間のモノに触れ、敏感な先端部分を、キツく擦りあげるように撫でられたときだった。
「やっ…ぁあっ…」
 思いがけない衝撃に、つい、声をあげ、三井先生の指に歯を立ててしまう。
「…人の指を噛むなんて…君は躾のなってない犬と同類か…?」
 呆れたような表情で、俺の口から指を引き抜く。
 もう片方の手を、ひざ裏に回し持ち上げられ、露わになった秘部に、濡れた指先をそっと押し当てた。
「っ…や…だ…っ…やだ、やめ…っ…レイジっ」
 こんなところに、レイジがいるわけもなく…。
 それでも、俺がいつも頼れるのはレイジだけだったから、そう名前を呼んでしまっていた。
「…綾瀬さんは、シンゴのためにならなかった…。だから、私が来たということを、ちゃんと考え直して…」
 そう言うと、三井先生は、少しだけ強引に指を押し入れていく。
「っひぁあっ…ゃっ…ぅんっ…ぁあっ…違…っ…」
「…違う…? なにが…? 綾瀬さんは、シンゴになにをしてくれた…?」
 どうしよう、レイジ…。
 俺は、馬鹿だから、なにも言い返せないよ…。
 2本、3本と増やされる指の感覚に、思考回路がめちゃくちゃになっていた。
「…いやらしい体だ…。内壁が吸い付いてくる。自分で…ココ、使ってたんだろう…? 綾瀬さんが好きってなくらいだから…後ろも使って一人で、欲求を満たしていたんだろ…」
 この人の言うことはすべて事実ばっかで…。
 俺って、わかりやすい…?
 なにもかもが読み取られてしまっていて、恥ずかしくなる。
「…それでも、シンゴはいやらしいから…本物じゃないと、満足出来ないはずだ…」
 俺を見下ろして、笑みをこぼしながらそう言うと、奥の方まで入り込んでいた指を一気に引き抜いた。
「ぁぁあっ…」
「…どんなものか…味わってみたいって…思ってる…」
 俺が、違うと首を振ろうとしかけるが、もう力が抜けてしまっていて、それさえも上手く出来ない。
 自分のモノを取り出した三井先生は、今まで指が入り込んでいた箇所にソレを押し当てて、俺が頭で理解するより先に、無理やり押し入ってきていた。
「ゃぁああっ…ぁっ…ゃあっ」
「…いくら、一人で遊んでいるとはいえ、処女は処女だな…。狭くて…きつくて…。それでいて、シンゴ自身は、いやらしいこと考えてて…最高だ…」
「っあぁっ…ンやぁっ」
 最高……?
 俺の体が…?
 それとも…俺が……?
「…どんだけ待っていても…綾瀬さんは…なにも君のこと、わかってくれないだろ…」
 レイジのこと…
 悪く言わないで欲しい気もするけど…っ…。
 ものすごく…納得しちゃったり…するわけで…。
「…私は…シンゴのことなら、なんでも…わかるよ…」
 その笑顔は明かに含み笑いの部類に入るものなのに…。
 本当に、俺のことをなんでもわかってくれそうな気がして、なんだか胸が締め付けられるような思いになる。
 三井先生に内壁を擦りあげられていく度に、考えることを拒んでしまっていた。
「あっ…ぁっ…はぁっ…三井せん…せぇ…っ…」
「…やっと…呼んでくれたね…」
 涙で視界がぼやけているせいだ。
 そのとき、三井先生が、なんだか幸せそうに微笑んだような気がして…。
 見間違いなんだろうけれど、なぜか、もっと涙が溢れていた。
「…ぅっくっ…ぁっ…あっ…せんせぇ…」
 レイジが好きだった。
 けど、レイジにはわかってもらえなくて…。
 ホントは、もっともっと、かまって欲しくて…でも、そんなこと言えなくて…
 わざと、問題が分からないふりをして電話をしたり、毎日、お見舞いに行ったりした。  
レイジの方から気づいて欲しかったのに…。
「…シンゴのこと…分かるのは、私だけだ…」
 そっと耳元で囁くように言われると、ものすごく、頭の中で響く。
 この人は…俺のこと、分かってくれる…?

 縛られていたカーテンの布を解かれても、自由になった手は、ただシーツを握るくらいで、俺の中から、抵抗するという意識はとうに消えてしまっていた。
「はぁっ…ぁっあっ…せんせぇ…っ三井せんせぇっっ」
 奥まで入り込んだモノが何度も、出入りを繰り返していくうちに、なにも考えられなくなってきて、それでも、なにかを求めるように、三井先生の腕に手を絡めてしまっていた。
「…そう…。もっと欲しがって…」
 もう、これ以上…寂しい思いはしたくなくて…。
 三井先生の言葉に甘えるように、背中に手を回す。
「ぁっ…あっ…ゃぅっ…んっ…やぁっ…もぉ…っ」
 三井先生は、なにかを示すかのように俺のオデコにキスをして、指先で涙を拭ってくれていた。
 逆に、涙が溢れていく。
「ぁっ…イく…っいっちゃぅ…っぁっあっ…ゃっ…やぁあああっっ」
 俺は、三井先生の体にしがみつく様にして、欲望を放ってしまっていた。



「…綾瀬さんが好きでしょうがないのだというのなら、別に構わないけれど…。好きの形にもいろいろある。寂しい思いをしたくないのなら…考えるべきだね…」
 …寂しいよ……。
 少し、そっけなくそう言って、俺に背中を向ける三井先生に、後ろからしがみついてしまっていた。
「…シンゴ…?」
「…なんでもない…」
 深く考えないでしてしまった行動を取り消そうと、慌てて腕を離す。
「…わかってる…」
 三井先生は、ただそう言って、そっと俺の頭に手を置いた。

―この人を信じて、いいのでしょうか…―