『風呂』





「ここにいたか、ソル」
嫌なくらいに聞き覚えのある声。
忘れようと思っても、何度も何度も、聞かされて。

相手はもうわかっている。
一応、振り向いた先にいたのは、思ったとおり。
カイだった。

「…なんの用だ」
なんてのは、愚問かもしれない。
用がなくてもやってくるような奴だろう。
ソルはそう思い、いつもカイを鬱陶しがった。

「そろそろケリをつけましょう」
それが楽しみであるかのように、笑顔で。
馬鹿がつくほど丁寧な口調に嫌気がさす。


しかも自分の方は、先ほどまで対戦していたせいでくたくただ。
こんな状態で、戦えるわけがない。

いちいち、答えるのが面倒で、ソルはそのまま、カイに背中を向けてベッドに寝転がった。

「っなっ…」
無視されたことに関して、なにか言いたいことでもあるのだろう。
ソルはそう思いつつも、我関せず…と言わんばかりに、そのままの体制を維持していた。

「どうしたんだっ、ソル」
思いがけない問い。
背中に手が這うのを感じた。
「なに…」
なんのことか、さっぱりわからない。
「すごい血の跡だぞ。早く手当てをっ」
そう言うなり、いきなり、ソルの服を脱がしにかかる。
「っなっ…。なに考えてやがる、てめぇ…」
ソルは、とりあえず体を起こすものの、いきなりの行動に、なすがままの状態で、上半身の服を脱がされていく。
「すぐ手当てをしないと」
子供に言い聞かすように、ソルにそう言って、もう一度、背中に手を這わした。
「あれ…」
傷跡なんてモノは残っていない。
ソルの体質の関係もあるが、元々、傷なんてしていないというのが本当のところだ。
「…もしかして…別の誰かの…」
察しがいい。
説明する手間が省けた。
ソルは軽く頷いて、また体を寝転がらせようとした。
だが、それはカイの手によって制される。
「な…」
ソルの腕を取るなり、どこかへと引っ張っていこうとしていたのだ。
「なんなんだ」
「お風呂に入りましょう。服だってこれほどまでに汚れて…」
「なんで、んなこと…」
ソルが否定したのが最後。
カイは勝手に『もうなにを言っても無駄だ』と判断したのか、行き成りソルを切り付ける。
「っ…な…」
後ろから。
そんなことをされるなど、もちろん思ってもいない。
殺気があったわけでもない。
されるがままに、背中を切り付けられたと同時に当たった頭への打撃に、気が遠くなっていくのを感じ取った。



「あ、気づいたか…」
気づかなかった方が、ソルにとって幸せだったのかもしれない。
目をあけた先は、楽しそうなカイの笑顔と、手にした石鹸。
いつのまにか、場所は風呂場で、ソルは全裸にされているのに気づく。
それだけじゃなく、すでに洗い終わったかのように、体中が濡れていた。
「…なに考えて…」
怒りを通り越して、呆れた状態で。
そうとだけ口を告ぐ。

「どうやら疲れているみたいだし、汚れてるし。ソルとは万全の状態で戦いたいので」
だからといって、風呂場に来ている正当な理由にはなってないだろうと、そうは思っても、もうソルには言い返す気力がなかった。
「ほら、傷も」
「それは、てめぇがやったんだろう」

問題は、これだけじゃない。
両手の自由が利かなくなっている。

金属質の何かで、後ろ手にがっちり固定されていた。
「おいっ」
「あぁ、それは、ソルが逃げないように」
なんでもない用に、にっこり笑って答えられて。
洗い場に座らされた状態。
がっちり足を抑えると、カイはソルの股間のモノに手を触れた。
「寝ている間に他は洗っておいたので」
勝手なことを。
「…相手、してくれますか?」
下から、少し頼むように見上げてそう言われ。
どうにも、こういったものに弱い。
「勝手にしろ…」
最後はいつも、ソルの方が、折れていた。

何度もカイが擦りあげるうちに、次第に硬さを増すのはしょうがない生理現象で。
絡まるカイの手が、いやらしい水温を奏でていた。
「…カイ…」
「気持ちいいですか?」
こんなガキにいいようにされるなんて…
そうは思いつつも、与えられる快楽に次第に溺れそうになっていった。

カイは、ソルの片足のひざ裏に手をかけると、足を折り曲げてしまい、奥の方を外気に晒す。
奥の秘部を指先で確かめるように撫で上げて。
ソルの表情を確認してから、ゆっくりと指を中へと押し込んでいった。
「っくっ…」
「力、抜いて…」
石鹸をまとった指先は、難なく入り込んでいってしまう。
ソルは少し不安ながらも、表情には見せないで、指が入り込む部分をそっと眺める。
その様子を、カイは嬉しそうに、眺めていた。

「もう1ヶ月近く、してない気がするな…」
カイは、わざと、以前の行為を思い出させるように、そう耳元で囁いて。
もう1本、指を足す。
「っんっ…く…」
それからはもうされるがままみたいな状態になってしまっていた。
こんなところに指を入れられていては、大した抵抗なんて出来ようもない。
奥まで入り込んだ2本の指先が、前後に蠢く感覚に、ソルは少なからず酔いしれた。

さっき切り付けられたときの衝撃も残っているんだろう、頭がボーっとする。
それに加えて、中かれの刺激に、頭が他ごとを考えるのを拒んでいた。

「…はぁ…っ」
「最近、ソルを追う理由が、自分でも少し曖昧になっている…」
まるで自分にでも言うように、呟くように。
カイは、そう言いながらもう1本指を奥に押し込んでいく。
「んっ…」
さきほどのカイの言った言葉の意味など、わざわざ聞き返す余裕はなかった。
「追うことが…使命だと感じるのは、自分の環境や地位だけじゃなくて…。私はソルを…好きなんだろう…」
自分でも、まだちゃんとした答えが出せていない。
曖昧に、自分の気持ちをソルに打ち明ける。

ソルは、カイの言葉には反応を示さず、ただ、されるがままに身を任せていた。
それに対して、カイはなにも催促したりはしなかった。
ソルは聞いている。
しかし、答える気はないのだろうと、カイには、なんとなく感じ取れていた。

ゆっくり指を引き抜いて。
「…いい…?」
一応、確かめるカイに、ソルは答えはしないが、否定もしなかった。
それを『いい』と受け取って、カイは自分の昂ぶりをゆっくり、蕾へと押しやった。
「っくっ…んぅんっ」
苦痛を訴える声とは違う、さんざん指で慣らしたソコに入り込むカイ自身を、快楽と受け止めて。
甘いとも言える声を漏らしながら、カイの進入を受け入れた。

入るだけ奥まで突き入れたソレを、そっと少しだけ退かせて。
内壁が擦られる感覚に、ソルの身が軽く震え上がった。
「ン…っ」
「…こういうときのソルは…すごく、かわいく見える…」
ソル自身に言っているのか、自分で確かめているのか。
そう呟いて、カイはソルの頬を手で撫でる。

歯向かうでもなく、頬を撫でる手の方へと顔を向けて。
ソルにとって抵抗しないというのは、その行為に同意しているのと同じことだった。
カイも、それは感じ取っているのか、抵抗されずに、受け入れてくれるだけで、嬉しかった。
「はぁっ…んっ…」
ソルの体が、少しビクつくのを見逃さないで、カイは少し微笑む。
「ここ…イイのか…」
もちろん、それに答えるソルではなかったが、否定もしない。
カイは、さっきソルが反応を示した箇所を、もう一度、突いて。
ソルの表情が、刺激に耐えるように歪むのを確認すると、その場所を、何度も突いていった。
「っくっ…ンっんっ…はぁっ…っあっ」
声が、浴室にものすごく響いていたが、羞恥心を感じる余裕などなかった。
ただ、与えられる快楽に、溺れていくのみ。
カイの方も、悦んでくれるソルを眺めながら、自らに与えられる快楽に、考えることを拒んだ。
ただ、いまは一緒に、同じ快楽を感じて。
「…ソル…。中…」
「っやめ…」
「一緒に、イかせて欲しい…」
素直にカイにそう言われると、どうにもソルには断ることが出来なかった。
勝手にしろと言わんばかりに、顔を背けて。

抵抗せずに、中で受け止めてくれる姿勢には、うれしさを感じたが、やはり見て欲しい。
自分もソルを見ていたい。
そんな感情から、カイは、背けられたソルの顔をそっと自分の方へ向けた。
目が合って、気恥ずかしさから目線だけでも逸らすソルに、そっと口を重ねて。
お互いの気持ちを確かめるようにして。
カイが、ソルの中へと欲望を放った直後くらいだろうか。
ソルもまた、大きく体をビクつかせて、中で受け止めるカイと同じ欲望を、放っていた。




「じゃあ、中も洗いますか」
なんでもないみたいに、カイはそう言うと、シャワーを片手に、いままでカイ自身が入っていたソコにそっと手を触れる。
「っふざけんなっ」
「でも、困るでしょう? 洗わないと」
「お前のせいだろーが」
「だから、洗ってあげようって言ってるんだ」
筋の通っているカイの言い分に、なにも言い返せず、ただ苛立つ気持ちだけ募っていく。

「…洗うとかいいつつ、汚しやがって」
そう。
初めは、『洗う』という目的で風呂に入ったはず。
それがこの結果。
「汚しただなんて…。確かに、洗わなければならない結果ではあるけどっ」
「つまりは汚したんだろう?」
少し、眉を寄せるカイに、無償に勝ち誇った気分で、ソルは笑みを見せた。
「…ソルは…。汚れたと、思っているのか…?」
やたら真面目な表情で。
静かに、そうソルに問う。
ソルは、自分が汚れたなどと、即答出来るはずもなく、言い留まった。

「……洗っていいですか?」
なにも答えないソルに、軽く笑ってカイは聞く。
「勝手にしろ…」
勝手に、やってくれて構わない。
そう受け取って、カイは笑顔で、頷いた。