『お礼のお礼』




「秘密特訓しよんか」
その言葉にふと足を止める。
「高山くん?」
ソコには、なぜかやかんを持った高山くんが立っていた。



「コンタクト…どうもな。ホント、壊れるとこだったで」
コンタクトっ!!
でも、元はといえば、ぼくが高山くんにぶつかっちゃったせいでコンタクトが落ちちゃって。
お礼を言われるほどのことでも……。
「びびったろ?目、悪いでコンタクトか眼鏡ないんと思いっきりガンつけてまうで……」
「そんなっ…」
いや…実際、びっくりしたかもだけど…本人に向かってそんなこと言えないしっ。
「にしてもお礼、せんとなー……」
2人でとぼとぼと歩きかけた時だった。
そう言う高山くんの方を見ると、『う〜ん』って、なにか考えてるみたいで……。
「っ全然っ…!!お礼なんていいよ。なにも……ぼく怪我とかしたわけじゃないしっ」
だから…ぼくのせいでもあるわけで……。
それを言うと逆につけこまれそうだから、あえて言わないでおくけど……。
「ま、遠慮せんとっ…。もらえるモンはもらっとき。……うーん……」
少し迷った様子でぼくの前に立ち止まると、高山くんはぼくの頬に手を触れる。
「……なに」
「決めた」
その手で顔を軽く上に向かされると、高山くんの視線から逃れられなくて。
次第に近づく高山くんの顔にも反応できなくて。
ただ、そのまま、高山くんを見上げてた。

軽く唇が重なって。信じられなくて。
それでもどうすることもできなくって、硬直状態。
アゴに回った手が、頬を掴むと、それに従い口を開いてしまう。
ゆっくりと侵入してくる舌が、ぼくの舌を絡めとって、背筋にゾクリとしたものが走った。

離れた口元からはいやらしく唾液の糸がひいて、一気に羞恥心が高まった。
「あっ…高…山く……」
口元を手の甲で軽く拭いながらも、そのまま、ボーっと、放心状態…。
「なに…?足りん?」
「ちがっ」
慌てて首を振る。
高山くんは軽く笑って……ぼくは笑うことも出来ず、高山くんの隣を歩いた。

「……これが……お礼なの?」
そう、ボソっとつい、言ってしまう。
だって……さ……?喜ばしいっていうか…ぼくがされちゃった方なんだし。
ぼくが高山くんのこと好きで、『してもらう』って形ならまだしも。
「……なんかご不満でも??」
そう言われるとやっぱり首振っちゃう。
でも……
考え込みながら歩いてると、隣で高山くんが『プっ』っと、噴出すようにするのがわかった。
「高山くん?」
「いや、悪い悪い、冗談だって。え〜っと……こっち。このラーメンやるから」
そう言ってカップラーメンを一つぼくに手渡した。
……冗談? なにが? キスがお礼ってのが??
それですっきりしたはずなのに、なんかまだ、もやもやする。
「冗談って……?」
自分でも聞く意味がよくわからないけど、聞いてしまう。
「え?」
「冗談で…したの…?」
別に怒ってるわけでもないし……。
それなのに、なんだかすっきりしない。
ぼくが高山くんのこと好きだとしても、『お礼』でしてくれるってのは、同情心とか義理だとか、そんなんみたいでいやだし……。
でも、冗談でされるってのもいやだと思った。
「……あー言い方、まずった…? …冗談ってのは、ほら、キスがお礼ってのが冗談で……。別に、冗談でしたってわけでも……」
「じゃっ……」
なんで……?
そう勢いで言いそうだったが、ムキになってるような自分が恥ずかしくって、思いとどまった。
それでも高山くんは気付いたみたいで……。
俺の頭にポンっと手をのせる。
「したかったから……って、そんなんじゃ駄目?」
また、冗談っぽく笑った。
「お礼とでも理由つけんとさ……やっぱ、いきなり出来んやん……」

恥ずかしいからラーメンを開けながら。
「お礼……ありがと……」
お礼のお礼を言ってみる。