『番長』



 初めて、郷田くんが負けるところを目にした。
 仙道のジョーカーに。
 リコはずっと、仙道がずるをしたんだと言っていた。  

 俺も信じられなくて、目を疑った。
「すまなかった」

 初めて、郷田くんが俺たちに頭を下げた。
 一番悔しいのは自分のはずなのに。
 郷田くんは、俺たちのことを気遣ってくれる。
 苦しくて、すぐには声が出なかった。

「リーダーが謝る必要ないよっ!」
「そうでごわす」
 口々に言うリコやテツオに、郷田くんが作り笑いを向ける。
 俺は一体、どう慰めればいいのかわからなくて。
 黙っていると、もう一度、
「悪かったな」
 郷田くんに言われ、泣いてしまいそうになった。
「いや、郷田くんが謝る必要ねぇよ」
 慌てて出た言葉は結局、リコとおんなじ。
 そう言うのが適切だったのかはわからない。
 他にももっと言うことがあるんじゃないのか。
 
 郷田くんの作り笑いに、俺もまた作り笑いを返した。  

 その後、郷田くんは真剣な面持ちで山野バンと仙道のバトルを眺めていた。
 俺もリコもテツオも。
 なにか裏があるんじゃないかって、そればかり探っていた。  

 郷田くんは、俺が1回バトルで負けるのとは比べ物にならないくらいの物を背負っている。
 自分が負けて悔しいだけじゃない。
 なわばり争いをしていたミソラ一中の仙道との戦いにはそれなりの重みがあった。  

 背負う必要ないのに。
 俺たちが慕うせいだ。  

 帰り道、みんなと別れた後、郷田くんの後を追った。
 慰め方なんてわからないけれど、いてもたってもいられなくなった。

「郷田くんっ!」
「お、ギンジ。……今日はみっともねーとこ見せちまったな」
「そんなことっ。仙道が……っ」
 ずるをした。
 そうは思えず言い留まってしまう。
「……わかってる。どうして3体になったかはわからねぇが、正々堂々と勝負して負けたんだよ」
 相手が悪かったとか、しょうがないとか。
 軽い言葉しか浮かばなくて、結局俺は、黙ったまま。
 郷田くんの横をついて歩いた。
「なあギンジ。悔しい思いはもちろんあるけど、結局は、実力で負けた。だから納得出来てねぇわけじゃねぇ。ただ、本当にお前たちには申し訳ないと思ってる」
「そんな……っ」
「ずるなんかじゃねぇ。仙道の実力は本物だ。負けを認めなきゃ、俺もこの先、強くなれねぇ。だから、今の俺が弱いのは認めるけど。……こんな俺でも、お前はついて来てくれんのか」
 堪えきれず、とうとう涙が溢れた。
 郷田くんに見られないよう下を向く。
 郷田くんは、本当に自分のことよりも俺たちのことを気にしてくれている。
「ついて行くに、決まってる」
「……そうか」
「こんなに、俺たちのこと考えてくれる人、郷田くんしかいねぇよ」
「言いすぎだろ」
「そんなことねぇ。……けど、俺たち郷田くんに頼りすぎてたかな。ちゃんと郷田くんのこと、考えられてなかったかな」
 直接郷田くんに聞いていいことかわからなかったが、つい口をつく。
 郷田くんがポンっと俺の頭に手を置いた。
「充分、お前は考えてくれてるよ」
「郷田くん……。あんまり俺たちのこと気にしすぎて、郷田くんが責任感じる必要ねぇから」
「ああ……」
「郷田くんは、俺たちの中で一番強ぇから」
「……ギンジ。ありがとな」
 郷田くんの表情は伺えなかったが、声は晴れているように感じた。
 ガシっと肩を掴まれる。
「お前がいてくれてよかった」
「郷田くん……」
「強くなるから」
「……うん」
 力強くそう言う郷田くんはやっぱりかっこよくて、俺たちの頼れる番長だ。
 番長は郷田くんしかいない。
 ずっとついて行くよ。